世界史ではなく絵の方に興味があるので、
本書を手にとってみたけれど、結果としては絵よりも、
歴史の面白さの方に引きずりこまれた結果となった。
姉妹編として「ブルボン朝版」の方も出ているけれど、
やはりブルボンとハクスブルクとでは、重みが違う。
「運命のいたずら」としか言いようのない歴史の渦に巻き込まれていく、
王朝の人々の悲劇を、
ここまで適確にかつ簡略に伝えた本は他にないのではないか。
我々が西洋の肖像画を眺めるとき、
その人物の背景にある歴史のことは、
あまり気にしない(というか、知らない)。
だから、単に、「うまく描けてる」とか、「美しい」とか、
そのぐらいの感想しか出てこない。
しかしひとたびその背景の歴史を知ってみると、
今まで見ていた絵が、ガラリと変わって見える。
「絵が語りかけてくる」というのはもはや陳腐な表現であるけれど、
歴史の底から、肖像画の叫びが聞こえてくる気がするのだ。
それにしても、王朝の人々は、みな物悲しい。
喜劇はひとつもなく、悲劇だけに彩られている。