ホロヴィッツといえば、
僕の中ではショパンでもリストでもラフマニノフでもなく、
やはり彼自身が作曲した、「カルメン変奏曲」。
名ピアニスト、ホロヴィッツの十八番中の十八番である。
何かのインタビューで、
「あなたはピアニストにならなければ、何になっていましたか?」
との質問をされ、「作曲家だ」と即答していたのを記憶している。
残念ながら、彼の作った曲がどれぐらいあるのか分からないが、
ともかくもこの「カルメン変奏曲」というスゴい曲があれば、十分だろう。
おそらく誰もが一度は耳にしたことがある、
あのカルメンの「ジプシーの歌」を元ネタに、
これでもか、といわんばかりの超絶技巧を盛り込んだ4分足らずの小品なのだが、
10代の頃に初めてこの曲を聞いたときの衝撃というか、
興奮は、今聞いてもちっとも衰えていない。
日本の古典文学の「本歌取り」や、
HipHopの「サンプリング」というのは、
誰もが知っている元ネタをさりげなく利用することで、
その元ネタがもつ背景というか文脈までも、
享受する側に感得せしむるのに効果的なのであるけれども
、
クラシック音楽の世界ではそのようなことはほとんど行われない。
他の曲ではなく、とりもなおさず”オペラ”を元ネタにしたところが、
さすがのホロビッツである。
つまり通常の楽曲ではなく、オペラを元ネタにすることで、
それを聞く側は、そのオペラのストーリーさえも思い浮かべながら楽しむことができるのだ。
情熱の女カルメンとその恋に身を滅ぼすドン・ホセの、
まさに狂気とも言える恋愛ドラマが、
このホロビィッツの超絶技巧演奏のサブリミナルとなり、
絶妙なエンターテイメント空間を作り出している。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm22151943