型破りで個性的な俳句が多い種田山頭火に、
彼にしては控えめだが、僕の好きな一句がある。

のぼりつめて 少しくだれば 秋の寺

単に「のぼってくだる」のではなく、

「のぼりつめて」、そして「少しだけ」「くだる」。

のぼりつめることによって極限まで高まった位置エネルギーを、
ほんの少しだけ解放する。

その緊張が若干緩んだところにあったのが、
「秋の寺」だというのが、なんとも心にくい。

「秋の寺」と聞けば、おそらく日本人なら誰でも、
そこにある種の寂しさのようなものを感じ取れるに違いない。

「秋の寺」は「のぼりつめた」場所にあってはならない。
かといって、位置エネルギーが低すぎる場所でも駄目だ。

限界まで登って登って、
ほっと一息ついたところの「秋の寺」。

シンプルだけれども、日本人の感性をベースにしながら、
四次元的な世界を感じさせてくれる名句だろう。

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