デ・キリコの絵というのは、一見シンプルで分かりやすい。
が、よく見ると、どうも謎めいて、容易に理解できる代物でもない。
縦に伸びる直線の多用、物憂げに伸びる影、大胆なパース・・・
語ることができる特徴は多く備えているものの、
確信をもった解釈ができない。
逆に言えば、自由に見ることを許してくれる。
この画家の人気の最大の理由はそこであろう。
・「彫像のあるイタリア広場」
これが典型的なデ・キリコ。
同工異曲の作品がいくつもある。
左下に伸びる建物の影をよく見ると、
アウトラインが施してある。
これはもはや影というよりも、画面を分割するデザイン要素なのかもしれない。
それだけ、影が主張をしている。
・「燃えつきた太陽のあるイタリア広場、神秘的な広場」
さきほどの絵と対照的なのが、晩年に描かれたこの作品だ。
影とは、太陽によって作り出されたものである。
この絵では、以前はあれほど主張していた影は、もはや存在せず、
影を作るべき太陽自体が、影になってしまっている。
この価値観の転換は、
太陽の不気味な形状の印象もあり、重い。
太陽とその影とを結ぶ紐のようなものは、
いかなる解釈もできるだろうが、
僕としては、実体と影とはつながっていて、
いつでも入れ替えることができる、
つまり、実と虚は表裏一体、という概念を表しているのではないかと思う。
デ・キリコらしくない明るい色彩で描かれているのだが、
テーマは非常に、複雑で重い。
少なくとも、その色遣いのように晴れやかなものではない。
ただ最初に述べたように、そのことに確信はもてないのだけれど。