カルメン

ひとことで言えば、上品でレガートな「カルメン」。

と書くと、この作品の魅力を削いでいるのでは、と思われるかもしれないが、
実際はその逆で、歌手とオケの特徴を存分に発揮させることにより、
「カルメン」の別の魅力を引き出すことに成功したのではないだろうか。

まず素晴らしかったのは、ドン・ホセ役のヤべ・トメ・フェルナンデス。

声量十分のテナーの美声と、何よりもドン・ホセのやさ男ぶりそのままの風貌、
まさにハマり役だったと思う。

そして、カルメン役のオクサナ・ヴォルコヴァ。

メゾ・ソプラノ独特の抑えの利いた太い声質と、いかにも悪女らしい表情(失礼)は、
カルメンにぴったりで、踊りのシーンの風格も十分、非常に素晴らしかった。

ミカエラ役のアンドレヤ・ザコンシェク・クルトは、
声量が若干足りない気がしたが、健気で控えめな女性を好演。
数少ないアリアも、無難にこなしていたと思う。

唯一残念だったのが、闘牛士エスカミーリョ役。

僕のイメージでは、優柔不断のドン・ホセに対し、
エスカミーリョは、毅然としたスマートな貴公子。

演じたのは、背の低いカメルーン出身の黒人の歌手で、
これは正直ミスキャストではなかったか。

歌の方も、一番の聴かせどころである、第二幕(酒場)でのアリアで声が全然出ておらず、
続く第三・四幕では、何とか持ち直してくれたが、ちょっともったいない気がした。

最後に、オケは素晴らしかった。
とにかくレガート、レガートで、柔らかい音色が印象的だった。

演出は割とシンプルであったが、過剰な演出に頼ることなく、
歌と音楽でストレートに楽しませてくれる好演だったと思う。