音楽の歴史は、ホモ・サピエンスの歴史と同じぐらい長い。

この間に我々は、様々な音色や奏法をもつ楽器を生み出してきた。

もしかしたら、原初の打楽器は、頭を打ち付けて鳴らしていたかもしれないが、
両手を使うことで、同時に二つの音を鳴らせるようになった。

しかし楽器というのは、我々の体で弾くものである以上、制限がある。

腕は二本しかないので、通常は二本の撥しか操れない。
(マリンバなどでは、片手に数本ずつの撥を持つ奏法はあるが)

弦楽器では、一方の手で弦を押さえ、一方の手で弾くことになる。
そして、弦を押さえる方の手も、指の本数は限られているわけだから、
おのずと、弦の本数や奏法も限られてくる。

このように、「楽器の奏法と身体性」ということに着目すると、
ヒトが自由に動かせる部位の中で最も数の多い「両手の指」を、
フルに、かつ等価に活動させて奏でる鍵盤楽器こそが、やはり最高の楽器なんだろうと思う。

そう、だから、なんやかんやで、僕にとっての音楽の原点はやはりピアノなのであって、
最近のお気に入りは、スクリャービン。

ソナタ、エチュード、プレリュード、幻想曲・・・どれを聴いてもハズレがなく、
ショパンの抒情性とリストの力強さを折衷したかのような、ロマン派ピアノ音楽の最高峰ではないだろうか。

そういえば、ホロヴィッツが晩年、レパートリーが限られてくる中で、
スクリャービンのエチュードは弾いていたのを思い出した。

幸いにもyoutubeに残っていたので、これを載せておこう。

後半の盛り上がりもさることながら、
冒頭の、左手に遅れて右手がメロディを奏でる静かな入り方が、この演奏の一番の聴かせどころで、
いともさりげなく弾くマエストロの、深いタッチが実に印象的だ。