お気に入りその1:
「黄色と金色のハーモニー:ゴールド・ガール―コニー・ギルクリスト」
色遣いの鮮やかさと、すらりとした少女の躍動感が見事。
品のあるロートレックといった感じ。
お気に入りその2:
「ライム・リジスの小さなバラ」
赤と黒のコントラストをベースにした、可憐の少女の肖像画。
モデルの意志の強さのようなものが、その眼差しから伝わってくる。
お気に入りその3:
「肌色と緑色の黄昏:バルパライソ」
南米チリの港を描いたという題材の珍しさもさることながら、
シンプルな中に、清新な美しさをもった、風景画の理想ともいえる作品。
ホイッスラーの風景画は、どちらかといえば暗い作風が目立つのだけれども、
僕は断然、こっちの明るさの方が好きだ。
空と海とを、微妙な筆遣いと色の違いとで描き分けているのは、さすが。
お気に入りその4:
「白のシンフォニー No.3」
「唯美主義」と呼ばれるホイッスラーの作風を、よく表している作品。
人物の姿勢は、明らかに不自然だ。
けれども、二人の女性をこのような形で描くことで、
左の女性の左側、そして両女性の間に、幾何学的なスペースが生まれる。
その幾何学的スペースと、女性の体が描くカーブとが、
絶妙なコントラストを生むことで、
この絵に、独特の魅力と安定感を与えているのだと思う。
モデルの体の線を使って、空間を区切り、レイアウトするという手法は、
現代の高級ブランドの広告写真とかにはよく用いられるのだけれど、
それをこの時代に既に先取りしているというのは、奇跡に近い。
絵全体に漂う、清冽さと倦怠感のようなものと相俟って、
この絵を、ホイッスラーの最高傑作とのひとつにしていると思う。
最後に、ホイッスラーの「ジャポニズム」について。
同時代の他の画家たち同様、
ホイッスラーの作品には、浮世絵を参考にしていると思われるものや、
日本の着物などを描き込んだものがあり、
それらをもって、「ジャポニズム」と呼ぶことはもちろん間違えではないが、
ホイッスラーにおける「ジャポニズム」を考える場合、
「テムズ川と隅田川との比較」という観点をもつことが、
有効な手がかりになるのではないだろうか。
既にそのような研究があるのかどうかは知らないけれど、
ちょっと追究してみたいテーマではある。