「どんな数にも物語がある」(アレックス・ベロス)

 

内容的には、大学の教養学部の教科書、という感じなのだけれども、
教科書というものが(なぜか)ツマラナイものの代名詞だとすれば、
この本はその逆だ。

身近にあふれる数学の例を豊富に紹介し、
ケプラーの12人へのプロポーズの話など、
興味深い逸話も織り交ぜながら、
数学の楽しさにグイグイと惹きこまれる。

中でも見事だと思ったのは、
借金の金利から定数「e」を発見したベルヌーイの話を発端に、

虚数の話へと展開し、すでに紹介済みの定数「π」を組み合わせて、
あの、人類史上最も美しい数式とも言われるオイラーの恒等式、

e+1=0

へとつなげる語り口は、まるで痛快な冒険譚を読むようで、
こんな授業を10代のときに受けていたら、今の人生は変わっていたかもしれない。

最終章が、この宇宙はセルオートマトンによって作られているのでは、
という話で締められるのも、まことに興味深い。

数学の面白さを理解できずに人生を送ることは、
酒の楽しさを分からずに生きるのと同じぐらい、
もったないことだと思う。