「耳袋」(根岸 鎮衛)

 

前から読みたかったのだけれど、
いつも使ってた新宿の某本屋が、

岩波文庫版の「耳嚢」上・中・下巻のうち、
いつも上巻だけが欠巻で、買わないままになっていたところ、

最近、毎週のように足を運んでいる馬場の古本屋に、
平凡社ライブラリー版(上下)があったので、迷わず購入した。

岩波文庫で古典を読むと、若干脚注がうるさいときがあるのだが、
平凡社ライブラリーは注釈がほとんどないので、
古典本来のリズムで楽しむことができた。

「耳袋」は江戸中期に書かれた随筆集で、
まさに奇談・珍談のオンパレード。

怪談、風俗、医学、経済、噂話など、ジャンルも多岐に渡っており、
江戸時代の生活を知るための資料としての価値もあろうと思われる。

収められている数多くの話のうち、
とあるパターンのものが、目立って多く載せられているのだが、その話とは、

ある人が病気になり、あと一日もつかどうかというときに、
友人が、町でその人に出会う。

病気は治ったのか、と聞くと、最後のお別れがしたくてとかなんとか言う。

次の日に、その病人の家を訪ねてみると、すでに亡くなっており、
前日に外で出会ったころに、ちょうど果てたのだという。

という話。

ギリギリで、まだ霊魂や妖怪が生活の一部として存在していた時代である。