朝、マンションの上の人が廊下を「コツ、コツ、コツ、コツ」と歩く音を聞いて、
条件反射的に、ティンパニのソロに導かれる冒頭の第一主題の木管のハーモニーが蘇ってきた。

ヴァイオリン協奏曲には、名曲と呼ばれるものが多いけれども、
個人的には、ベートーヴェンのこの曲がズバ抜けている。

チェロ・ソナタに傑作を残したベートーヴェンが、
チェロ・コンチェルトを書かなかったのは残念だけれども、
その分もこの曲が補ってくれているといっても過言ではない。

第一楽章の展開部の、ヴァイオリンが自由に奏でる憂いを帯びた部分や、
ゆったりと歌う第二楽章、
それに続く躍動的なフィナーレ、そしてまた顔を出す哀愁漂う旋律。

アラを見つけようとしても見(聴き)当たらない。
どこから始めても、気付いたら最後まで聴いてしまう、そんな曲。

昔は確か、メニューイン&フルトヴェングラーのをよく聴いていたと思う。

でもとにかく、第一楽章はなるべくゆっくりと演奏するべきだと思っているので、
そんなのをyoutubeで探していたら、あった。

バレンボイムとパールマン。

きわめて女性的だが、ベートーヴェンらしさも失っていない。

第一・二楽章は限界までゆったりと弾き、
第三楽章は軽快かつ起伏をつけて、
これがこの曲の理想だと思う。

(前の記事で取り上げたストラヴィンスキーもたまたまパールマンだったけれど、
別に彼がお気に入りというわけではない。)

演奏後のパールマンのしんどそうな顔と、
バレンボイムのクールな表情が妙に印象的。

これを聴くと、同じベルリン・フィルでも、ムター&小澤征爾とかはとても聴けない。

いろいろな解釈を許してくれるのも、名曲たる所以だけれども。