「進化学」という学問分野があるのに対し、
「絶滅学」が存在しないのは、
生物の絶滅は、気候・地質・天文・生物など、
各分野の学問知識を総動員しなくてはならず、
一学問としてのアプローチでは、
その真相が掴めないからではなかろうか。
だからこそ各分野の専門家は、
これまで地球上で起きた絶滅の原因を、
自分の専門に結び付けて語りたがるのと同時に、
絶滅規模としては、比較的大したことはなかったが、
恐竜が滅びたという点でインパクトの大きかった、
白亜紀-第三紀の絶滅に倣って、
安易に天体衝突を原因として劇的に語る、という風潮もあった。
過去の絶滅を考えるにあたっては、
その確実な真犯人を言い当てるのが難しいのと同様、
あらゆる犯人候補の可能性を否定することができない、
つまりどのような容疑者であっても、
都合のよい証拠だけを提示することで、
あたかも真犯人であるかのように語ることができてしまう。
この本は、そのような「安易な犯人捜し」の対局に位置するものだ。
過去の環境のわずかな変化を手掛かりに、
ひとつひとつの可能性をつぶさに検証し、
各事象間の因果関係を丁寧に検討していくさまは、
大衆向けの本としてはかなり退屈な部類となってしまうだろうが、
科学本としては、あるべき姿である。
(ただ、表紙のイラストのせいで、
勘違いしてしまう方もいるかもしれない)
巨大火山の噴火→温暖化→海洋の無酸素化
という流れがこの本の語る「大絶滅の真犯人」のメインストリームであるが、
結果としてそれが正しいのであれ、間違っているのであれ、
いわゆる「絶滅ビッグ5」以外の絶滅においても、
状況証拠を積み重ねながら推論していくその内容は、
「絶滅マニア」にとっては貴重である。