フランス在住の日本人作曲家による、音楽とは何か、を探るエッセイ集。
最初は、「フランスかぶれ」で鼻につくなー、と思っていたのだけれど、
第六章の「国歌とは何か」で評価はガラリと変わった。
「君が代」が悪いとか「ラ・マルセイエーズ」が良いとか、
そういう些細なことではなく、
国歌と国民とのあり方について深く思索し、
最終的には、国という存在についてまで言及していく。
一時期巷で騒がれていたような国歌論争とは、
ひと味もふた味も違う、卓見だと思う。
そして、演歌について。
現代のクラシック作曲家である著者をして、何故「演歌」なのか。
演歌とは「演じる歌」であり、
その本質には、言葉と音楽の問題がある。
シャンソンやカンツォーネもそうなのかもしれないが、
日本のくだらない音楽市場(これは著者ではなく僕の私見)においては、
演歌だけがかろうじて言葉と音楽との関係性を保っているのも、事実である。
つまり演歌について考察することは、
ある意味音楽の本質に迫る行為であって、
それを日本人作曲家の著者が海外で行ったというのは、
自然といえば自然なことなのかもしれない。
実はこの本に書かれているような視点で音楽を捉えることは、
僕のやっている義太夫なんかでは当たり前のように行われていることで、
逆に、西洋音楽だけをやってきた人には、
ちょっと理解が難しい部分もあるかもしれない。
最終章の角田忠信との対談で、
日本人は邦楽を左脳で聴く、という話題が出ているように、
実は演歌を持ち出すまでもなく、
日本人にとって音楽と言葉は表裏一体の存在なのである。