「しぐさの民俗学」(常光 徹)

 

もう少しライトな本を予想していたら、
これがなかなか、古今の文献やフィールドワークを駆使し、

「しぐさ」を超えた俗信や迷信にも斬り込む、
民俗学の立場からの意欲的な論考である。

特に第七章「クシャミと呪文」では、
「くしゃみ」を表す語がどのように変遷してきたかは、
国語・国文学的にも興味がある話題だし、

第八章「『一つ』と『二つ』の民俗」は、
ものの数え方という、おそらく言語発達の初期段階の表現にひそむ、
心理的・宗教的意味について見事に考察している。

そして最終の第九章「『同時に同じ』現象をめぐる感覚と論理」において、
しぐさという空間的な所作に、時間の概念をプラスして、
当書のフィナーレにふさわしい推理と論説が展開される。

決して気軽に読める本ではないのだけれど、
それでも読み手を飽きさせないのは、

取り上げられている個々の事象がよく知られているというだけではなく、
畳み掛けるように例を示し、そこから隣接する内容へとテンポよく移ってゆく、
語り口の巧さに負う所が大きいのだろう。

最近よく目にするようになった、
日本文化の上澄みだけを掬ったような陳腐な「しぐさ論」とは、
明らかに一線を画す好著。