クラシックの作曲家は作曲家であると同時にピアニストであることも多いから、
当然ながら、ピアノ協奏曲というジャンルに名曲は多い。
僕の中での「三大ピアノ協奏曲」といえば、シューマン、チャイコフスキー、
そしてこのベートーヴェンの「皇帝」。
特に「皇帝」は、18歳でピアノをやめる寸前に習った曲でもあるので、
思い入れが深いし、それこそ「毛穴の数まで」知っている。
そんな曲だから、誰の演奏を聴いてもそれなりの良さを感じてしまうわけだけど、
最近気に入ってるのは、シュナーベルの演奏。
「カデンツの中にカデンツァを配した」というのは誰の言葉だったか忘れたけれど、
なんやかんやで、この曲は冒頭のピアノ・ソロをどう弾くかで、
その演奏が好きかどうかの大半が決まるといってもいい。
やはりこの冒頭は、オケが悠々と和音を奏でる中、
いかにピアノが「前のめり」に入っていけるか、だと思っていて、
そういう意味では、グールドの演奏なんかは僕にとっては論外で、
ここはもったいぶらずに、勢いよく入ってほしいのである。
シュナーベルは、この冒頭のみならず、
第一楽章はとにかく「前のめり」で、テンポも随分動かしてくるし、
聴く人にとっては武骨と捉えられるかもしれない。
でもそれに慣れてくるうちに、
実はこれはすごい演奏なんじゃないかと思えてくる。
ヘンな解釈とかカッコよさも追求せずに、純粋に音楽を楽しんでいるというか、
「ベートーヴェンとの会話を楽しんでいる」、そんなような聴こえてくる。
それは第二楽章でも顕著で、
冒頭の弦による鳥肌の立つようなレガートがあるのだけれど、
シュナーベルはそれに溺れることなく、
フライング気味に入ってきて、自分に主導権を引き寄せる。
このあたりのオケとソリストの駆け引きは、コンツェルトならではの醍醐味だろう。
そしてフィナーレ。
ピアノによるテーマをオケが引き継いだ後、
ピアノがスケールを弾き、次のテーマが出てくるあたり、
普通ならテンポを若干動かして、新しいテーマであることを明確にしたいところなのだけれど、
シュナーベルは、そんな小細工など必要ないとばかりに、先へと進んでいく。
そして、再度最初のテーマが戻ってくる所で、ここぞとばかりにテンポを落とし、
冒頭のテーマを、明らかに最初とは違うタッチで弾くのが、カッコ良すぎる。
その後も、これがベートーヴェンだと言わんばかりに、
明確なリズムで躍動していき、例のコーダの手前、
ここで長めのフェルマータを入れるのが心憎い!
怒涛のスケールのあとに、
最後の最後までシュナーベルと付き合った、オケの「前のめり」のトゥッティで幕を閉じる。
厳密にいえば楽譜どおりではないのかもしれないが、
ひとつひとつのフレーズや音に説得力があるというか、
「必要に応じて音楽を動かす」ということを具現している名演だと思う。
オケと指揮者は分からないけれど、こちらも立派。
第一楽章
第二楽章
第三楽章