10代の頃は、音楽と文学に耽溺していて、
そのせいで高校を卒業し損なった。

音楽に関して言えば、好きな音楽はたくさんあったのだけれど、
10代の頃の人格形成に大きく関わった音楽といえば、
ベートーヴェン、マーラー、そしてリストだろうと思う。

リストについては、弾くのはともかく、
聴くことに関してはそれほど好みではなかったのだけれど、

あるとき、「巡礼の年」の第1年・第2年を聴いてから、
思春期の僕には欠かせない音楽となった。

音楽をどう聴くか、については人それぞれで正解はない。

ただ、当時の僕については、文学との関わりというか、
表面的な心地良さではなく、「詩的情緒」を感じさせてくれる音楽こそが至上であり、

その意味では、ショパンよりもリストの「巡礼の年」こそが、
まさに「耳で聴く詩」として、
敏感だった10代の感性を刺激してくれたことは間違いない。

「巡礼の年 第1年:スイス」。

いまあらためて聴いてみると、
若かったあの頃が蘇ってくるようで少々気恥ずかしいが、
聴きごたえ十分な名曲である。

ソナタでもなく、ショパンのような形式優先の曲でもなく、
自由に、まさに詩のごとく、
音楽と詩との融合を楽しむかのような境地が、この曲にはある。

特に第6曲の「オーベルマンの谷」が、昔も今もお気に入りで、
前半3分の1の、谷底のような陰鬱なムードに、
陽が射すような柔らかな旋律が割り込んでくるあたりは、
何度聴いても鳥肌が立つ。

10代の頃は、ひたすらブレンデル盤を聴いていた。

ホロヴィッツ、アラウ、キーシン・・・色々聴いたけれど、
思い出補正もあって、

やはり、一音一音を丁寧にタッチするブレンデルのピアノは、
僕の嗜好にマッチする。

言葉で説明するのはなかなか難しいのではあるが、
ピアノによる叙事詩、
こういう音楽を楽しめることは、皆が美味いと言わぬ酒を楽しむかのような、
秘かな喜びを伴うものでもある。