常磐津都㐂蔵さんが僕の父親の三味線の師匠だった縁もあり、
ほぼ初めて、常磐津をLiveでじっくりと鑑賞する機会となった。
演目は「仮名手本忠臣蔵」の九段目、いわゆる「雪転し」の段である。
自分がいま義太夫で稽古しているのが三段目の「刃傷の段」で、
そこで陰でちょこちょこと出てくる加古川本蔵が、
この九段目では主役となる。
主君への忠義と親子の愛情という、
浄瑠璃のお決まりといえばお決まりのパターンなのだが、
その二つの王道テーマを、
「忠臣蔵」の脇役たちと言ってもよい人物たちが繰り広げるさまが、
なんともあわれを誘う。
特に最後、本蔵が事切れるときの、
「・・父様申し父様と、呼べど答えぬ断末魔、
親子の縁も玉の緒も、切れて一世の憂き別れ、
わっと泣く母、泣く娘、ともに死骸に向かい地の、
回向念仏は恋無情、出でゆく足も立ち止まり、
六字の御名を笛の音に、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、
これや尺八煩悩の、枕並ぶる追善供養、
閨の契りは一夜ぎり、心残して、立ち出ずる。」
という、縁語・掛詞を効かした七五調の地合が、
しみじみと味わい深い。
語りは、力弥を語った常磐津千寿太夫と、
そしてなんといっても、
本蔵と戸名瀬を語った常磐津菊美太夫が特に素晴らしく、
特に本蔵と戸名瀬の夫婦を語り分けた菊美太夫の芸は、
まさに素浄瑠璃ならではの醍醐味であった。