僕が絵画の見方を学んだのは、名画中の名画ともいわれる「ラス・メニーナス」だ。
だから、ディエゴ・ベラスケスにはちょっとした思い入れがある。
彼の作品7点の他、ルーベンス、ムリーリョなど、
見所満載の満足度の高い展覧会だった。
まずはベラスケスの「マルス」。
軍神がなぜベッドにいるのか?ということに意味を見つけるような鑑賞の仕方は、
個人的にはあまり好きではない。
この絵における何よりの素晴らしさは、
人体の作る様々な角度、
特に左腕と脇腹および太ももが作る鋭角の三角形、
そしてその下の左膝による鋭角、
それに対する右肘と右膝の柔軟なカーブ、
これらが絶妙なバランスで観る側の視覚を刺激し、
楽しませてくれる。
やや傾けられた首や、腹に寄った皺の具合なども、
人体の描写を生気あるものにしている。
今回のベラスケスでは、これが一番。
お次は、デ・ベレーダの「ジェノヴァ救援」
約3mX4mというこの巨大の絵の前に立つと、
あたかもこの場面に自分が居合わせているかのような、そんな錯覚にとらわれる。
救援に来た右側の人物たちの表情と、
それを受け容れる左側の陣営の表情とが、
政治臭さというか、狡猾さというか、
単なる歴史画とはいえない、細かなニュアンスを見事に表現しているように思う。
次はムリーリョの「小鳥のいる聖家族」。
暖色を効果的に用い、服や布が描くカーブも緩やかにすることで、
聖家族における、温かみのある一瞬を描くことに成功している。
ヨセフと幼きイエス、そしてそれを見上げる子犬の視線とが、
きれいな一直線上に配置されていることも、
この絵に安定感をもたらすことに一役買っている。
最後は、やはりこの人を抜きにしては絵画を語れない、ルーベンスの作品。
有名な神話の場面を描いた「アンドロメダを救うペルセウス」だ。
この作品の肝は、天使を含めた5本の腕が複雑に交差する画面の左上部分。
並みの画家であるならば、この左上部分の密度を気にするばかりに、
人体のその他の部分や姿勢が不自然になってしまいがちなのであるが、
そこはさすがのルーベンス、その画筆に寸分の狂いもない。
そして、縄をほどくペルセウスと、それに安堵するアンドロメダの表情が実に見事、
僕の中ではこの作品が今回のベストで、
ベラスケスには申し訳ないが、このライバル画家の方に軍配を上げたい。