地球温暖化が(一般的に)問題視され始めたころ、
僕は2つの理由でそれが嫌だった。
1つは、アル・ゴアらによる政治的プロパガンダの色が濃いように感じたこと。
そしてもう1つは、地球のシステムは非常に複雑だということは知っていたので、
人間の活動が、そのまま地球温暖化に直結するという、
多くの人が信じていたような「短絡的な」考え方が嫌だったことだ。
気候システムは「非線形科学」である。
たとえば古典力学では、入力値が決まれば出力値は計算で正しく求められる。
だから現在から100年後の地球と木星の位置は、
ほぼ正確に計算することができる。
でも気候は違う。
太平洋で発生した台風X号がどういう進路で日本に来るかは分からないし、
明日晴れるのか、雨なのかすらも確かではない。
ましてや未来の気候など、現代科学の力を以てしても、
完全に予測することなど不可能だ。
だが「完全」はムリであっても、過去を徹底的に分析することで、
かなり精度の高い予測はできる。
そして科学の素晴らしさはそこにある。
一見「非線形」に見える気候であっても、
大局的に見ればそこに規則が現われてくる。
地球と太陽の位置関係による数万年単位の周期、
いわゆる「ミランコビッチ・フォーシング」だ。
そしてその証拠は、グリーンランドの厚い氷の下をはじめとした、
思いも寄らない場所に、明確に刻まれている。
その大局的な気候の規則の上に、
一見些細な出来事が連鎖的に重なって、
結果的に地球の気候は「非線形」となる。
この本は、複雑に絡み合った気候変動の「犯人」たちを、
そのメカニズムと証拠を丁寧に解明することでひとつずつ炙り出していく、
いわば一種の「科学ミステリー」だ(もちろん小説ではない)。
気候システムは「非線形」である(つまり「真犯人」は分からない)と認めた上で、
それを追いつめる科学者たちの涙ぐましい努力や、
地層、植物、動物、歴史書、美術、等々、あらゆるジャンルに残された状況証拠、
そしてもちろん図解や数式も駆使しながら、
できうる限りの手段を使って、気候変動の真犯人に迫ろうとしている。
人間の活動が地球温暖化を招く、というのは簡単であるし、
そしてそれはおそらく間違えてもいない。
けれど一度立ち止まって、気候システムの複雑さについて理解をした上で、
あらためて温暖化について考えることにより、
事態の重大さと、それに我々がどう対応すべきかについて、
もっと深く受け止められるようになるのではなかろうか。
理系・文系問わず、現代人必読の書だと思う。