著者は数学のノーベル賞ともいうべきフィールズ賞を受賞し、
京都大学・ハーバード大学の名誉教授も歴任した、
日本が生んだ世界的な数学者。
とはいっても数学に関する内容はごく一部で、
大部分は、学問をしたり物事を考えたりする上で大切なこと、
そして、人生で心がけるべきことについて熱く語った、
青少年向けの啓蒙書といっていい。
そんな本を40台半ばのおっさんが一生懸命読むのは、
世間的には「いまさら・・」と思われるのかもしれないが、
しかし僕のような平凡なサラリーマンであっても、
世界のトップに立った著者の頭の中を少しでも覗くことで、
(まだ半分も残っている)今後の人生のヒントを得てもおかしなことはない。
いやむしろ、大切な言葉には年齢や職業に関係なく、
謙虚に耳を傾けるべきではなかろうか。
特に印象に残るのは、
創造の基盤になるのは、「素心」、つまり素朴な心を失わないこと
というくだり。
数学に限らず、複雑で解決できない問題にあたったときは、
気分転換でもしてもう一度最初から考え直してみると、
今まで気づかなかった「穴」を見つけることがある。
それはもしかしたら「初心忘るべからず」と似たようなことなのかもしれないが、
生きているうちに溜まっていく偏見や思い込みを、
我々はなかなか手放すことができないでいるわけで、
いざというときには、心の中を一時的に断捨離して、
思考の転換をすることが大切だということだろう。
成功談だけではなく失敗談も紹介されていたり、
具体的な人物、たとえば岡潔とのエピソードも興味深く書かれていたりで、
読んでいて飽きることはまったくなかった。