「表現としての俳諧―芭蕉・蕪村」(堀切 実)

 

韻文の解釈というものは、内容に偏りがちで、
主観的、そして時には感傷的になりがちではあるが、

それとは逆に、語句やレトリックにフォーカスを当てて、
あくまでも客観的に芭蕉・蕪村の句の解釈を試みた小論集。

俳句に対するこのようなアプローチ方法は、
別に珍しくも何ともないと思いながら読んだのだが、

巻末の解説に、これらが書かれた昭和60年前後においては、
このような解釈は斬新で、価値のあるものだったと書かれていて、
あぁそうだったのかと思った。

それでも若干不満は残る。

たとえば「蕪村の否定表現」という小論においては、
蕪村の句における否定表現がどれほど効果的であるかを述べているわけだが、

蕪村の句のみを取り上げて、しつこいぐらいに同じような説明が続くのであり、
そこはやはり、他の俳人たちの同類の作品とともに分析することで、
はじめて蕪村の特徴というものが浮かび上がるのではないだろうか。

それは「芭蕉のくり返し表現」という小論でも同様で、
対句表現の有用性を述べるのであるならば、
なぜそこで漢詩や和歌の同様の表現と比較をしないのだろうか。

要するに、全体として芭蕉なり蕪村なりの世界を嗅ぎまわるばかりで、
その他の作品と比較するという視点が欠けているため、
どうしても説得力に欠けてしまう。

俳句というものは、和歌や連歌の進化形であることは言うまでもなく、
そして和歌や連歌は、漢詩の影響を受けているのも明らかなわけで、

俳句の表現について云々するのであれば、

同じような内容が、そのベースとなるジャンルではどのように表現されているのか、
また、同じ表現が用いられていても、ジャンル間でどのような意味の変質が見られるのか、

といった比較考証をすることなしには多くは得られまいという点で、
力作ではあるが、ちょっともったいない著作だと思った。