「浮世風呂」(式亭 三馬)

 

やはり定期的に古典を読まないと、どうも落ち着かない。

そういえば江戸の戯作の類にはあまり縁がなかったので、
滑稽本の代表作『浮世風呂』を読んでみることにした。

全編ほぼ会話のみで成り立っているので、
軽快・痛快であることはもとより、

当時の文化や風俗に関する情報が盛り沢山であるため、
知識面での興味にも事欠かない。

個人的に特に気になったのは、

1.江戸の話し言葉について
2.当時の浄瑠璃音楽について

の2点である。

1点目については、国語学において綿密な研究が行われている代表例みたいなものなので、
今更ここで述べるまでもないが、たとえば、

「是すなわち物を食てすぐに吐くものです
おそらくは鵜飼の症でござろう。難治の症でごつす。」

のように、文末表現の事例やこのころ既に「~です」という表現が使われていたなど、
枚挙に暇がない。

2点目については、

「やっぱり宮古路だぜ。てめへ何か、コウ、新内で女を迷はせようという腹か」
「新内が又流行り出したナァ。闇の晩に歩いて見や。新内と新内がつきあたらァ。
右や左の旦那さん」
「わわわん」
「何も後生とおぼしめし」
「わんわん」
(豊後)「つひ手拭のほヲうかアむフフンりヒヒンヒンヒン」

という件を読むと、
新内節や豊後節が、庶民にどのように捉えられていたかが分かるし、

「上方唄は品がいい。江戸は半太夫、河東このふたつにとどまるよ。」

という台詞からは、当時さまざま流派のあった浄瑠璃が、
江戸と上方でどう分かれていたかのヒントにもなる。

作者自身による各編の「序」からも、
ごくごく軽~い気持ちで書いた作品であることが分かるが、

そういう肩肘を張らないで書いたものであるからこそ、
当時の言葉づかいや文化が、「生のままで」表れているのかもしれない。