「升遐」とは天皇や貴人の死のこと。
以前紹介した「高倉院厳島御幸記」同様、源通親による日記で、
厳島への旅から戻って約1年後に高倉院が崩御、
その悲しみの心の中や院との思い出を、
100首以上の和歌をメインに綴った、歌日記的な作品。
源通親という人は、かなりの政治家だったようで、
そう考えると、この作品も彼の真の心の声というよりは、
どうも世間に対する「忠義心」のアピールのような気がしてくる。
勿論、院が亡くなったことは悲しく辛いことだったには違いない。
でもこの作品については、
文章はとにかく漢籍を引用して美辞麗句を連ね、
和歌も大部分が『源氏物語』等の和歌の本歌取り(というか換骨奪胎)だし、
中には心情をストレートに詠んだ歌もあるにはあるが、
それよりも「見栄え」ばかりを気にしているのが、
どうも鼻につく。
見栄えを気にしても、結果として一流の文章になっていれば、
それはそれで見所はあるのだが、
やはりこの源通親という人は、どうも文章が上手くない。
上手くない人が、やたらと引用しまくって格好つけた文章を書くわけなので、
悲しみが伝わるどころか、むしろ滑稽に思えてしまう。
まぁでも結果的に、
平家やら院政やらといった、当時の政治の微妙なパワーバランスが窺い知れるという点で、
ある意味貴重といえば貴重な史料なのかもしれない。