齢は百とせの半に近づきて、鬢の霜やうやくに涼しといえども、
なす事なくして徒に明し暮すのみにあらず、
さしていづこに住みはつべしとも思ひ定めぬ有様なれば
という、さりげない中にも格調の高さがあるフレーズで始まる、
13世紀前半、不詳の作者の手になる紀行文。
京都から鎌倉へと下る道中を綴っているという点までも、
以前紹介した「海道記」と共通であるが、
あちらがかなり難解な和漢混淆文だったのに対し、
こちらは表現も柔らかで、読み易くなっている。
内容としては、途中の歌枕を眺め、和歌を詠み、
業平や西行のことを思い、、、といったように、
目新しいことは特にないのであるが、
鎌倉で過ごした数か月の記述の中で、
当時建造中だった大仏が、3分の2ほど出来上がっている(「その功すでに三が二にをよぶ」)、
という描写があったのが興味深かった。
道行的な旅の辛さについてはあまり感じられず、
割と客観的に、さらりと旅を語ったという印象。