芯の通った文学論。
「まえがき」にて、小説の読み方には、
・形式や技法、テクストの構造や言語を調べる「内在的アプローチ」
・文学以外の対象や理念を探求するために、
文学テクストを利用する「外在的アプローチ」
の2通りが存在し、
本書は小説『フランケンシュタイン』について、
これら2通りの解釈を試みるのが主旨であること、
そしてなぜ『フランケンシュタイン』を選んだのか、
が、明確に語られる。
これは文学論に限らず、いかなる書物であっても、
はじめに目的と、それを採り上げる理由が説明されることは、
実に好ましい。
最初に道筋が提示されるため、
あとはどんどん読み進めていくだけである。
『フランケンシュタイン』という作品については、
何を隠そう実は僕も、
単なるSF怪奇小説の古典、ぐらいにしか思っていなかったのだけれども、
この本を読んで、本当はさまざまな要素を含んだ、
文学的に「深い」小説なのだということを知らされた。
「内在的アプローチ」として語るならば、
全体が第三者による手紙文という形式になっており、
そこに彼がフランケンシュタインから語られた内容や、
怪物の告白などが混在し、
入れ子状の複雑な構造になっていることが着目される。
「外在的アプローチ」について触れるならば、
作者は二十歳そこそこの若い女性であり、
彼女自身の不倫や死産という不幸な経験が、
人工生命体である怪物を産み出すという異様な設定に、
一役買っているとも言える。
上記に書いたのはごく一部で、
『フランケンシュタイン』は、
このような多様な角度からの「読み」を許容するほどの、
実に興味深い作品なのであり、
それを明瞭簡潔に論じた本書は、
見事と言わざるを得ない。
ちなみに、これは海外でも随分昔から勘違いされているらしいのだが、
「フランケンシュタイン」とは、怪物のことではなく、
それを産み出した主人公(科学者)の名前である。