「生ける屍の死」(山口 雅也)

現代日本を代表する推理小説と言っていい。

全編とにかく「死の臭い」に満ち溢れているのが特徴で、

霊園を舞台とした連続殺人事件というメインテーマはもとより、
この小説の最も特異な点である、

死者が蘇る

という設定が、
この作品に更なる暗い色調を加えている。

要するにリヴィング・デッドが普通となった世界なわけだが、
といっても、ゾンビのように生者を喰うわけでもないし、
また意識がないわけでもなく、

蘇ったものたちは、
生前と同じように喋り、行動することができる。

ではなにゆえにそのような設定が必要だったかというと、

死者が蘇るという状況で、何が殺人の動機と成り得るのか

を作者は描きたかったに違いない。

その意味で、この作品は「動機」に主眼を置いた推理小説であり、
勿論、密室や暗号などのお決まりの要素も盛り込まれているものの、

死者が死者を疑い、死者の立場から殺人の真相を暴く、

というその点において、まさにこの作品はユニークな存在となっている。

さらに特筆すべき点といえば、
登場人物はすべて外国人で、
舞台もアメリカのニューイングランドだということ。

作者曰く、死者が蘇るという設定は、
海外が舞台でないと成り立たないというのは当然なのだが、

日本を舞台にすると、日本文化の「当たり前」に頼りすぎてしまうため、
あえて海外を舞台にすることで、自分の真価を試したかった、と。

作者自身が、海外作品の愛読者であったために、
その世界観の中で、作品を作りたかったとも語っている。

数ページも読めばすぐに分かるが、
まるで海外の翻訳小説を読んでいるかのように、

人物や風習、風景の細かな点に至るまで、
ネイティブが書いたのではないかと思われるほど、
巧みな文章だ。

ストーリー的にも、
親子、夫婦、兄弟、恋人同士の複雑な人間関係を上手く練り込んであり、
畏れ多いが、まったく非の打ちどころがない小説だと思う。