「黄色い部屋の謎」(ガストン・ルルー)

ガストン・ルルーといえば、
一般的には『オペラ座の怪人』の作者として有名だが、

探偵小説好きとしては、
やはりこの『黄色い部屋の謎』を挙げないわけにはいかない。

タイトルにもなっている「黄色い部屋」の密室トリックと、
衆人の目の前で犯人が消失するというトリックが目玉なのだが、

個人的には、探偵小説のトリックというものは、
物理的要因に近づくほど魅力が薄れ、
逆に、心理的要因に近づくにつれ魅力が高まると思っているわけで、

そういう意味で、
この作品のトリックはいずれも心理的な要因であり、

しかも100年以上前に書かれたとは思えないほど、
未だに通用する内容だと思っている。

フランスの片田舎の古い屋敷を舞台にして、
犯行の動機としては、被害者をめぐる三角関係という、
やや陳腐といえなくもない内容なのではあるが、

二人の探偵が推理を競い合うスリルや、
まるで映画を観ているかのような視覚的描写の確かさ等々、

現代に語り継がれる古典としての価値を、
あらためて実感させてくれた。