思えば昨年のGWに、
有栖川有栖による密室紹介みたいな本でこの作品を知り、
ただ、そのあまりの長編ぶりにビビッて、
いつかゆっくり読もうと思っていたのに、
こんなに早く読破できるとは。
思えば2019年は、上記の本のせい(おかげ?)で、
主に密室系のミステリーに目覚めたわけだが、
その中には、いわゆる「四大奇書」のうち未読だった、
『虚無への供物』と『匣の中の失楽』も含まれていて、
そしていま『人狼城の恐怖』を読み終えて言えることは、
この作品は、四大奇書のどれにも(いや、『ドグラ・マグラ』は例外か)劣らぬほどの、
奇書だということ。
『ドグラ・マグラ』の病的精神性と、
『黒死館』のペダンティズム、『虚無への供物』のトリック、
そして『匣の中の失楽』の階層構造(・・意味深w)、と、
これらのすべての特徴をすべて包含している、
とんでもない作品なのだ。
この第四部で、
ついに蘭子たちは「人狼城」へ足を踏み入れることになる。
そこで次々と、密室殺人や死体消失のトリックが暴かれるのだが、
(ちなみにそれは、ほぼ想定通りのトリックだったが)
肝心の、血液反応が全く出て来ない。
そのからくりは、
実は城の構造自体にあることを蘭子は見抜くわけだけれど、
いやぁ、双子の城のはずだった「人狼城」の、
まさかの正体を知ったときは、
想定外だったのはもちろん、
そのスケールというか、壮大なトリックというか、
これぞまさに、この作品の真骨頂!と叫びたくなる衝撃だった。
そして、最後に暴かれる、犯人たちの殺人の動機。
舞台となったアルザス・ロレーヌ地方が抱える政治的な問題に、
カトリックとユダヤのこと、
そしてナチスによる戦争犯罪などが複雑に絡み、
これはちょっと重い。
というか、この手の話を、
探偵が犯人の前で滔々と繰り広げるというのは、
最後の最後で間延び感がするのは避けられないかな。
「第二部 フランス編」で「人狼」の話が出たときに、
もしかしたらこの作品は非現実的なのかな、と思ったけれど、
実はそうではないらしいと思ったら、
第四部の最後の最後で、また人狼の話になって・・・
と、最終的な結末は謎のママではあるのだが、
最後の最後は蛇足だと思えば、
本格推理小説として十分すぎる出来であろう。
果たして自分の中で、
この作品を越える探偵小説が出てくるのかどうか。
2020年の読書ライフも有意義にしたい。