ロアルド・ダール 作、「あなたに似た人〔新訳版〕 I・Ⅱ 」(ハヤカワ・ミステリ文庫

第一次世界大戦中に生まれた、
英国の作家、ロアルド・ダール。

ジョニーデップ主演の映画、
『チャーリーとチョコレート工場』
の原作者と紹介した方が早いかもしれない。

世界一有名な短編小説の名手とも評されるらしいが、
恥ずかしながら、今回読むまでは知らず。。。

ただ、今回この2冊の短編集を読んでみて、
なるほど、これはさすが、ということぐらいは、
普段小説を読まない僕にも納得がいった。

ストーリーとしては、短編によくある、
「あっ」というオチがつくのがほとんどで、

その意味では、
世の中には、もっとすぐれた短編は多いと思う。

けれども、この作家の短編が優れているのは、

人物同士が会話の中で作り出す緊張感

これが、思わずうーんと唸りたくなるほど、
巧妙に描かれている点だろう。

それが特に顕著なのは、
巻Ⅰの冒頭「味」で描かれる、

ワインのテイスティングにおける、
産地を当てる側と当てられたくない側の、
心理的葛藤。

特にワインに詳しくなくても、
まさに「手に汗握る」会話だけの攻防が、
リアルに展開される。

こういった、人物同士の心理的攻防を描いた作品として、
漱石の最後の小説である『明暗』を思い出したのだが、

そういえば、漱石は英文学の専門家だったわけで、
それが英国生まれのロアルド・ダールとどう関係しているのかは、
浅学な僕にはよく分からない。