第二十三番歌

【原歌】
月見ればちぢにものこそ悲しけれ
わが身ひとつの秋にはあらねど
(大江千里)

【替へ歌】
秋の夜の孤独に耐へかね街ゆけば
わが身ひとつにネオン染み込む

人気度ではおそらく、
百人一首中のNo.10には入るだろう。

秋は自分だけに来るわけではないのに、
なぜ秋の月を眺めると、こうも悲しくなるのか、

という、現代人にも理解できる感覚を、
きわめて平易な言葉で詠んでいるのが、
親近感が沸く。

ならば直球勝負で、
原歌のムードはそのままに、
舞台は思い切って現代の繁華街とし、

月の光ならぬネオンの灯りを、
情感を際立たせるスポットライトとした。

ちょっと啄木風かな。

第二十四番歌

【原歌】
このたびは幣も取りあへず手向山
紅葉の錦神のまにまに
(菅家)

【替へ歌】
恋に病み神に手向けし山紅葉
遠く眺めむ旅の合間に

道真にはもう少し良い歌もあるのに、
定家はなぜこれを撰んだのか、
理解に苦しむところではあるが、
なかなか機智に飛んだ歌ではある。

今回の旅は急だったために、
幣も持たずに手向山に来てしまいました、
その名のとおり、紅葉を手向けますので、
神よどうぞお受け取りください、

とまるで言葉遊びのような原歌なので、
その言葉遊び感は崩さず、

ただの旅ではなく、
「恋に苦しんだ挙句の旅」という設定にすることで、
やや近代的なエッセンスを追加してみた。

末尾を「旅の合間に」としたのは、
「神のまにまに」と音が近いのと、
原歌と同様に「旅」であることを明示するため。