第五十三番歌
【原歌】
嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は
いかに久しきものとかは知る
(右大将道綱母)
嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は
いかに久しきものとかは知る
(右大将道綱母)
【替へ歌】
久しきは秋の夜ならず嘆きつつ
ひとり寝ゆゑと君やは知るらむ
二人で寝る夜はあっという間だけれども、
ひとり寝の夜は長いものだということを、
あなたは知らないでしょう、
という、『蜻蛉日記』の作者による原歌。
「かは」による反語表現を継承しつつ、
長いのは秋の夜長のためではなくて、
ひとり寝のためだということを、
あなたは知らないでしょう、
と、季節感をプラスした替へ歌にしてみた。
第五十四番歌
【原歌】
忘れじのゆく末まではかたければ
今日を限りの命ともがな
(儀同三司母)
忘れじのゆく末まではかたければ
今日を限りの命ともがな
(儀同三司母)
【替へ歌】
今日までの命ならずはせめてただ
「忘れじ」を胸に生くべきものを
これもいかにも女流歌人らしい、
激しい恋の歌。
原歌はやや分かりづらいが、
忘れじの部分に「」を付けると、
解釈しやすくなる。
「お前のことは決して忘れないよ」
といったあなたの言葉を、
ずっと信じることなんて難しいので、
今日死んでしまいたい、
という歌意。
別にフラれたわけでもなく、
相手の言葉が信じられないというだけで、
何も死ななくてもよいのでは、、と思うのだが、
詳しい事情は、
当事者ではないので分からない。
替へ歌としては、
詠み手が病気か何かで、
今日死んでしまうことを前提とし、
もし今日死なないのであれば、
あなたの言った「忘れないよ」という言葉を胸に、
生きていけるのに…(でもそれも叶わない)
と、相手の「忘れじ」という言葉を大切にして、
生きてゆきたかったのに、、という、
逆の(?)心境にしてみた。
いやぁ、恋の歌は疲れる。