去年の1月から練習を始めた、
バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第2巻」。

当初は、2ヵ月で1曲(プレリュード+フーガ)、
全24曲を4年かけて終わらせるつもりが、

40台後半にとっての1年は、
あまりに貴重なので、
途中から1曲/月にペースアップし、
先月、12番までを何とか終えた。

もう1年半というべきか、
まだ1年半というべきか、

1曲1曲の密度の濃さに、
ときに驚いたり、ときに悩んだりしながら、

とはいえ、
我ながら良い趣味を見つけたと思っている。

前半を終えた、といっても、
たぶん死ぬまで繰り返し弾き続けるだろうし、

この偉大なる作品を「終えた」などということは、
到底あり得ないのではあるが、

一応何とか、
半分を弾くことができるようになったわけなので、
ここらでちょっとひと休み。

この7月は、
1番から12番までを繰り返しさらいつつ、
来月からの後半スタートに備えている。

ということで、
区切りがついたので、

自分なりに前半の各曲の、
練習メモ的なものを残しておこうと思う。

●第1番(ハ長調)
・プレリュード
第1巻の1番のプレリュードはあまりに有名だが、
こちらの方も、負けず劣らず美しい。

冒頭2小節は、
左手は主音のオクターブを延ばしっぱなしという、

この第2巻でよく見られる、
オルガン音楽的?な雰囲気がある。

けれどそこから先は、
いかにもバッハらしく、

調性の間を彷徨いながら、
最後はさりげなくハ長調に戻って、
調和的完成度を感じさせてくれる。

・フーガ
オーソドックスな3声のフーガだが、
16分音符での同じ音型が目立つので、

パターンさえ慣れてしまえば、
それほど困難ではない。

プレリュードと合わせて、
前半では最も気持ち良く弾ける曲のひとつ。

●第2番(ハ短調)
・プレリュード
たしか第1巻もそうだったけど、
短調の曲のプレリュードって、
エチュードっぽい曲が多い気がする。

この曲もそうで、
基本的には16分と8分の同じような音型の繰り返しで、
音楽的には、正直面白くない。

心を無にして弾くべし。

・フーガ
左手での静かな主題の後に、
それを若干変形した右手が続く。

良い意味で重厚感がないというか、
全編通して祈るように進んでいき、

最後近くのストレッタも、
溜息の連続のようで、

C majorの和音で終わるのが、
いかにもバッハらしい。

●第3番(変二長調)
・プレリュード
第1巻1番のプレリュードを彷彿とさせる、
アルペジオによる曲だけれども、

左手はひたすら和声担当で、
8分音符を刻んでいるだけなので、
弾くのはラクっちゃ、ラク。

是非ともペダル付きで弾きたい。

ただ後半、突然眠りから覚めたように、
8分の3のアレグロに変わり、
そこから先は、左手が結構クセ者。

前半休んだツケをここで返せという感じか。

このアレグロが、前半の第一関門。

・フーガ
おどけたような主題によるフーガ。

冒頭と、8分音符の間に挟まる休符が、
このテーマの特徴で、

ここの間の取り方というか、
休符の前を伸ばしすぎず処理できるかがポイント。

ただ僕としては、
あまり好きなタイプの曲じゃない。

●第4番(嬰ハ短調)
・プレリュード
珍しくエチュードっぽくない短調。
ちょっとサラバンドっぽい。

ただ、装飾音が多いのと、
これは短調曲全般に言えるのだが、
臨時記号が多いため、
スムーズに弾くには結構骨が折れる。

曲としてはイイ曲で、
弾くたびに味わい深い。

・フーガ
16分音符3つのまとまりテーマを作る、
16分の12の曲で、

臨時記号が多いうえに、
単調である反面エチュードっぽいので、
弾くのはラクではない。

冒頭でテーマが、
地の底から湧いてくる感じがカッコよく、
終始緊張感が持続する。

ということで、
4番は、曲としては好きだけど、
個人的には難易度「高」。

●第5番(ニ長調)
・プレリュード
とりあえず最初の感想が、
「これ、ハイドンのソナタじゃね?」。

スケール+分散和音で上昇していく冒頭が、
なんか古典派の曲っぽいというのもあるけど、
何となくソナタ形式っぽいなぁ、
と思ったり。

第二主題はないのだけれど、
提示部→展開部→再現部、
という流れがちゃんとあるんですよね。

なので、
あまりバッハを弾いている感がしない。

それもバッハの凄いところなのか。

・フーガ
8分音符の三連打が印象的なテーマで、
このパターンは8番とか12番も同様。

後半のストレッタ含め、
この三連打がしつこいぐらいに顔を出すが、
曲としては極めてオーソドックス。

プレリュードも含めて、
この5番をひとことで表すならば、
「雄大」。

●第6番(ニ短調)
・プレリュード
これもまた、エチュード系短調。

臨時記号少なめということもあり、
割と気持ち良く弾ける。

・フーガ
4分の4拍子なのだけれど、
16分の三連符4つがテーマに含まれていて、
やや特徴的なリズムかも。

もしかしたら前半では、
弾くだけなら、
これが一番簡単かもしれない。

●第7番(変ホ長調)
・プレリュード
一言でいうなら、「牧歌的」。

3拍子系ということもあって、
舞曲っぽい感じもする。

上昇音型と下降音型の、
掛け合いが弾いていて楽しい。

・フーガ
コラール風というべきか、
長めの音符でゆったりと、
厚みをもった進行が特徴的。

この7番は、6番とともに、
前半では最も弾きやすい曲かも。

●第8番(変ホ短調)
・プレリュード
おなじみのエチュード系短調。

元々の調性記号が6つなうえに、
臨時記号が多いので、
弾きにくいこと、この上ない。

フーガも含め、
前半ではこの8番が一番苦手だわ。

たぶん調性が違えば、
もっと弾きやすいんだけどなぁ、、

でもそこはさすがバッハ先生、
そう簡単には弾かせてくれませんね。

・フーガ
弾きにくさはプレリュード同様で、
しかも四声のフーガ。

テーマは、前半でもいくつか見られる、
8分音符の三連打なので、
意識して弾きやすいのが、
せめてもの救いかな。

●第9番(ホ長調)
・プレリュード
7番、11番とともに、
牧歌的な穏やかな曲。

でも、
それなりの速度で弾くと、
それなりに難しい。

・フーガ
7番同様、コラール風(?)、
って言うんですかね、

長めの音符が多くて、
オルガンで弾いたら気持ちよいんだろうな、と。

フーガではあるのだが、
和声的な楽しみの方が大きいかな。

プレリュードもフーガも、
7番に雰囲気が似ている。

●第10番(ホ短調)
・プレリュード
お決まりの、エチュード系短調。

元々の#がひとつだけなので、
臨時記号地獄に巻き込まれても、
それほど苦痛ではない。

装飾音が多めだけれども、
前半終わり近くの、
モルデントの連続で高揚感を高めていく所が、
カッコ良くて好きかも。

・フーガ
4ページあるから、
前半のフーガの中では一番長いかもしれない。

8分の三連符と、
力強い4分の組み合わせが、
独特の雰囲気を出している。

後半、フェルマータで何度か止まったり、
アダージョを挟んでアレグロになったり、
トッカータ的な自由さがあるのかな。

弾くのもそれほど困難じゃない。

●第11番(へ長調)
・プレリュード
16分音符がないことからも分かるように、
プレリュードとしては動きが少ない曲。

その分、小節を跨ぐタイが多くて、
バッハによくある、
「和音のうち、いくつかは残したままで、
他の音を差し替える」
というパターンが頻出することになり、
これが地味に弾きづらい。
※本来は残すべき音なのに、
指が離れてしまったり、
その逆だったり。

ただ、曲としては、
ヘ長調という調性にピッタリというか、

透明感のあるハーモニーと、
調和の美しさを楽しめる。

・フーガ
プレリュードとはうって変わり、
まるでジーグのような躍動感のある曲だ。

パターンが単純なので、
フーガの主題は意識しやすいが、

逆に、ちょっと面白みがないというか、
やっぱりこれはジーグだな(笑)。

●第12番(へ短調)
・プレリュード
短調のプレリュードにしては珍しく、
エチュードっぽくないというか、

4分の2拍子だけれども、
何となくサラバンドを彷彿とさせる、

幾分哀調を帯びた、
どちらかといえば内向的な曲。
(そういう意味では4番に似てる)

技巧的にも特に難しい箇所はない。

・フーガ
プレリュードの雰囲気とはうって変わり、
こちらはいかにもアレグロなフーガ。

主題にある同音の3連続が、
所々で登場するのが印象的で、

それをいかに、
際立たせつつも控えめに奏でるかが、
(たぶん)この曲のポイントかと。

2、3か所、表現が難しいけれど、
弦楽器でいうとポジションというか、

「指の配置換え」?
を余儀なくされる箇所があって、

冒頭の主題で気分良くスピードを上げてしまうと、
後半がちょっと困る。

前半最後のこの12番は、
プレリュード、フーガともに、
バッハの短調曲の美しさを堪能できる。

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・・・・・・・・・・・
ということで、
単なる感想の羅列になってしまい、
自分以外には何の興味も湧かないとは思いますが、

ただひとつ言っておきたいのは、

「バッハの曲は、聴くのと弾くのでは、
まったく違う」

ということ。

これは鍵盤曲に限らず、
無伴奏チェロ組曲とかでもそうなのだけれど、

なんだろう、
聴いただけでは分からない、
構成というか戦略の深みみたいなものが、

特にフーガを弾くと、
それらをより実感できる。

語りたいことは山ほどあるけれど、
語るよりも弾くことに専念しよう。

ということで、
来月からは後半をスタート。

第2巻を終えるのは、
順調ならば1年後か…。

世界が元に戻っていることを願いたい。