阿津川 辰海 作「蒼海館の殺人」(講談社タイガ)
作者は20代で、主人公は高校生、
ということで、

最初こそは、
「おっさんには厳しいかな。。。」
と不安だったが、

読み進めるうちに、
逆の意味で裏切られた。

これは、かなり上出来のミステリー。

名家の一族が集まった屋敷で、
殺人事件が起こる、

という、
それこそお決まりのパターンなのだが、
とにかくトリックがすごい。

密室とか、小道具とか、
物理的な仕掛けはほぼ皆無なのだけれど、

真犯人による、家族同士の感情操作や、
誤認誘導などの「心理トリック」が、
幾重にも張り巡らされていて、

もちろん好き好きにもよるが、
これは完全に僕好みの作品。

暴風雨で屋敷の水没が迫っている、
という設定は必須ではないだろうが、

全体の緊張感と閉塞感、
そして切迫感の演出に活かされてるし、

後半の謎解きパートで明らかになる事実も、
「そんなんアリかよ!」という類はなく、
前半にちゃんと伏線があるものばかりだし、

なにもかも計算の上、
実に巧妙に練られたストーリー。

ただひとつ、難点を挙げるならば、
真犯人は意外な人物なわけだけれど、

さすがにそこに紛れていたら、
気付くでしょ、、、ってぐらいかな。

現代日本のミステリー作品も、
捨てたもんじゃないな。