綾辻 行人 作「十角館の殺人」(講談社文庫)
ミステリーは好きなのだが、
あまり現代の作品には親しみがなく、

評判が良さそうだったので、
とりあえずこれを読んでみた。

無人島に渡った若者グループが、
十角形をした「十角館」という建物で、

何者かにひとりずつ殺されてゆく、
という、よくあるタイプのお話。

一日半で読み終えたので、
なかなか楽しめるには違いないのだけれど、

推理小説として優れているかと言われると、
ちと疑問。

そもそも、トリックがない。

「十角館」という特殊な舞台設定を活かした、
奇妙な仕掛けやら、密室やらを期待したのだけれど、

残念ながら、
江戸川乱歩の少年探偵団レベル。

あと、舞台が「閉鎖系」だと思っていたのに、
実は「半開放系」だったこと。

これは途中で、
大いに興味を削がれた要因でもある。

そして何よりの減点は、
この作品が、

よく読んでいれてば、
犯人を当てることができる、
というタイプではなく、

あとから新事実が明かされて、
ほら、犯人の殺害動機はもっともでしょ?

この人が犯人で納得でしょ?

という、
後出しパターンの作品であること。

要するに、
途中で立ち止まってじっくり考えれば、
ロジカルに犯人を当てられるというのではなく、

読んでいくうちに、
あぁ、なるほどね、
と霧が晴れてゆくわけで、

好き嫌いの問題かもしれないが、
これはちょっと、
僕の好みではなかった。

とはいえ、
密閉空間でひとりずつ殺されていくという、
ドキドキ感は十分に味わえるし、

十角館にまつわる、
ドロドロとした人間関係の設定とかも、
それなりに読み応えがある。

なので、本格推理小説というよりも、
スリラー的なノリで読むのが、
ちょうどいいのかもしれない。

最後に。

書評などで、
「一行ですべてがひっくり返る」
みたいな紹介がされているけれど、

自分的にあのエピソードは、
犯人のキャラクターを曖昧にするというか、

その行為の必然性がないために、
完全に蛇足だと思う。

少年の頃に読んだ、
『そして誰もいなくなった』
をまた読み直したくなった。