虎尾 達哉 著「古代日本の官僚-天皇に仕えた怠惰な面々」(中公新書)
かつて深夜残業が続いていたときに、
毎夜タクシーで帰宅していたことがあるのだが、

霞が関の省庁の前を通り過ぎるとき、
「客待ちタクシー」の多さに、
驚いたという経験がある。

一時期ニュースでも、
官公庁の「ブラック勤務」について、
話題になっていたが、

そう、日本の官僚は、
とにかく勤勉なのである。

7、8世紀の頃、
「神にしませば」とうたわれた天皇を中心に、
中国を真似て、
「律令国家」を完成させたとなれば、

その時代から、
勤勉な官僚たちが天皇を支えていた、
と思いがちであるけれども、

実はそうではなかった、
というのが、この本の主旨である。

もちろん、真面目な官僚もいただろう。

しかし、現代につながる、
絵に描いたように勤勉な官僚、
が生まれるためには、

儒教的精神の刷り込みが、
徹底されることが必要であり、

それはせいぜい、
江戸時代以降のことなのではないか。

それ以前、
ましてや7、8世紀においては、
この本に書かれているように、

勤勉とはほど通り、
呑気で怠慢な官僚たちが、
大勢いたのだろう。

では具体的に、
そのような官僚たちの勤務状態はどうであり、

それに対して、
天皇を始めてとしたお役所が、
どのように対処したのか、を、

実際の記録を元に、
明るみにしてゆくのが本書である。

儀式をサボる、
でも後の宴会だけは出席する、
最後までいると面倒なので、
宴会も途中でバックレる、

仕事をサボってピクニックする、
仮病で公務をドタキャンする、
賄賂をもらう・・・・

などなど、
ある意味人間味溢れる、
官僚たちの「サボりぶり」に、
逆に微笑ましくもなってくる。

そして何よりも驚きなのは、
そのような官僚たちに対し、
お上があまりにも寛容であったこと。

制度だけは中国を真似したので、
一応、罰則はあるにはあるのだが、

何やかんやで、
減刑されるのである。

たとえば、天皇が出席する儀礼に、
無断欠席したとなれば、
中国であれば処刑ものだが、

我が国では、暗黙の了解になるどころか、
ご丁寧にも進行役が、
「代返(代わりに返事すること)」までしてくれ、

それを天皇も黙認する、
といった具合だ。

良くも悪しくも、
結果としてそのような形で、
我が国の歴史が存在したわけだから、
結果オーライということなのだろう。

怠慢に対しては、
何も厳しく罰するだけが政治じゃない、

それはもしかしたら、
現代にも通用する教訓かもしれない。

かつての、「貴族」と呼ばれた特権階級の、
知られざる一面を垣間見れて、
なかなか興味深い一冊だった。