對中 如雲 著「司馬江漢『東海道五十三次』の真実」(祥伝社)
歌川広重の「東海道五十三次」は、
言わずと知れた、
世界的な名作浮世絵であるが、

まさかそれに「パクリ元」があり、
しかもそれを司馬江漢が描いていたとは…。

当然ながら、
江漢の「五十三次」には、
贋作説もある。

しかしこの本では、
まるでミステリー小説において、
名探偵が犯人のアリバイを、
ひとつずつ崩していくかのように、

江漢の「五十三次」が、
紛れもない真作であること、

そして広重が(悪い意味ではなく)、
これをパクっていることを、
明晰に証明してゆく。

そして単に、
「五十三次」の分析をするだけではなく、

ドナルド・キーンをして、
「江戸の街角で、突然近代人に出会った衝撃」
とまで言わしめた、

司馬江漢その人の、
人物像にまで迫ってゆく。

正直、この本を読むまでは、
司馬江漢という人は、

平賀源内のような「マルチな天才」、
ぐらいにしか思っていなかったのだが、

大名たちから慕われ、
幕府権力をも恐れず、

コーヒーミルや補聴器、地球儀なども制作し、
そして広重にパクられるほどの創作力をもつ、

その偉人というか、
まさに奇人ぶりにはリスペクトしかなく、
ドナルド・キーンの評にも頷ける。

そしてこの本の素晴らしいところは、
前半に「カラー」で、

江漢と広重の「五十三次」すべてを、
見開きで掲載していること。

両作のどこが似ていて、
どこが違うのかが、
よく分かるのはもちろんなのだが、

こんな名作を、
一度にたっぷり堪能できるとは、
まさに良書。

絵画ファンなら、
前半部分を眺めるだけでも、
損はしないだろう。

それにしても、
両者の「五十三次」を分析することで、

作者の人物像はもちろん、
やや特殊ともいえる江戸時代の、
社会情勢にまで推理することができるとは、

単なる「眼福」だけではない、
絵画鑑賞の意義を知ることもできた。