源範頼 (シリーズ中世関東武士の研究 第14巻)
源義経と同様、頼朝の弟として、
平家追討の大将でありながら、

美化・英雄化された義経と比べ、
あまりにも影の薄い源範頼という武将。

小中学生の頃、
吉川英治(たぶん)の『平家物語』を読んで以来、

自分の中でくすぶっていた、
「源範頼とは、果たしていかなる武将なのか」
という疑問を解き明かすべく、

6,500円という高価な本だけれど、
読んでみることにした。
(それにしても、範頼関連の本は少ない!)

一言で説明するならば、
範頼に関連した著述をまとめた、
論文集。

出自、源平合戦での活躍、
伊豆幽閉の原因と死、
そして子孫の行方、

と、この本を読むことで、
分かる限りでの、
範頼の(ほぼ)全貌を知ることができる。

そもそも、
なぜ範頼については謎が多いのかといえば、
文献が少ないこと、これに尽きる。

最も信頼に足る『吾妻鏡』は、
鎌倉幕府お墨付きの歴史書であるため、
政治的立場の偏りが甚だしく、

『平家物語』や『源平盛衰記』といった軍記物は、
フィクション色が強すぎて、
史実としての信頼性は低い、

という状況である一方、

幸いなことに、
在京の公家である九条兼実の『玉葉』から、

特に範頼に限ったわけではないが、
当時の状況を客観的に知ることはでき、

それと他の史料を組み合わせることで、
「謎の武将・源範頼」の姿を、
何となく浮かび上がらせることは可能だ。

範頼については、
どうしても義経と比較されてしまうため、
「凡将」というのが一般的な評価なのだが、

しかし、
範頼が苦手な水軍を率いて、
九州を平定していたからこそ、

壇ノ浦で平家の退路を断つことができ、
それが源氏方の勝利に貢献したことから分かるように、

義経が朝廷に取り込まれた一方で、
鎌倉の頼朝の指示に忠実に従い、
大局的な判断をすることができた範頼は、

凡将どころか、
すぐれた指揮官であったに違いないと、
この本を読んで実感させられた。

あと印象深かったのは、
範頼の死について。

『吾妻鏡』では、
頼朝に疑われて伊豆に幽閉された、
という事実が端的に書かれているだけだが、

曽我兄弟の仇討ち事件の裏にあった、
範頼をかつぎあげたクーデター、

そしてその直後の、
おそらく自死または暗殺。

普通に歴史を学んだだけでは知り得ない、
権力の構造とそれに関連する悲劇を、
知らしめてくれた一冊だった。