大坂の豪商だった山片蟠桃が、
1800年代の初頭から、
約20年かけて書き上げた大著。
いかにも商人らしい徹底した合理主義と、
江戸時代ど真ん中に、
ここまで先進的な見識を持った人がいたことに、
率直に驚かされる。
「天文第一」では、
地動説を紹介するだけではなく、
我々の太陽系は、
この宇宙にある無数の「太陽系」のひとつすぎない、
という論を、
既にこの時代において、
堂々と展開していることに、
まず打ちのめされる。
そして「地理第二」では、
おそらく同時代のほとんど人が、
聞いたこともないような海外の地名や地勢について、
極めて精確に紹介し、
そして「神代第三」では、
日本の古代神話がいかにデタラメかを論破、
「歴代第四」では、
歴史における誤認識を冷静に指摘、
その他、社会制度や経済について、
持論をロジカルに展開、
「異端第九」では、
仏教や神道を、
単なる金儲けの手段にすぎない、
と徹底的に攻撃し、
「無鬼第十・十一」では、
霊魂などは存在しないことを、
力説する。
当時(一部は今でも)庶民に広がっていた、
迷信や風習を、
ちょっと大人気ないんじゃない?
と思うぐらい強烈にダメ出しをする一方で、
西洋科学の合理的な物の見方や、
中国古来の儒学的な考え方こそが、
人間にとって大切なんだと、
全編に渡って熱く語っているわけだが、
現代の我々が読んでも、
古いどころか、
むしろ妙に納得させられてしまう、
そんなエネルギーに満ちている。
200年以上も前の鎖国の時代に、
ここまで卓越した見識をもった人物がいたことは、
もっと広く知られても良いと思う。