まるで映画のワンシーンのように、
北海に浮かぶヘルゴラント島で、
若きハイゼンベルクが、
思索に耽るシーンから始まる。
そこから量子論の何たるかと、
その不思議さ、魅力について、
ロジカルに、そしてときに詩的に、
著者は語ってゆく。
そして前半の最後、
エンタングルメント(量子もつれ)を頂点とし、
この世界は、事象やモノが独自で存在するのではなく、
「関係性」でのみ捉えられる、という、
この本のテーマが力強く描かれる。
ここまでは見事だったのだけれども、
後半はやや蛇足感が強い。
ナーガールジュナの「空」の概念が、
量子論につながるというのは、
素晴らしい着眼点だと思うが、
ボグダーノフとレーニンの政争については、
唐突感がすごかったし、
最後の方で、
人間の主観にまで足を踏み込んで、
「意味」とは?「意識」とは?
の話になると、
こちらの頭の準備ができていないせいもあり、
???という感じだった。
自分はこの分野の本を何冊も読んできたが、
正直、なぜ行列が量子力学で有効なのかは、
恥ずかしながらこの本で初めて理解できたし、
つまり量子論については、
かなり丁寧に分かりやすく、
説明されているわけで、
どうせならば後半あまり飛躍せずに、
最後まで量子論に軸足を置いたまま、
「関係性」というテーマを、
掘り下げて欲しかった。