中村 明 著「日本語名言紀行」(青土社)
気象、人体、動物、住居、等々、
様々なジャンルに関する「名言」を、

我が国の古今の名作から集め、
それについて語ったエッセイ。

ひと言で「名言」といっても、
そこには色々な意味が込められているわけで、

表現として優れているもの、
含蓄深いもの、
人口に膾炙しているもの、
響きのよいもの・・・・

著者がどういう基準でもって、
「名言」を選出したのかが、
不明瞭であるのに加え、

作家についてのエピソードが、
どうしても著者自身が係わったものに偏るため、

「名言紀行」というよりは、
著者の趣味嗜好を、
なぞっているような感覚が、
どうしても強くなる。

むやみにジャンルを広げた結果、
作家・作品が偏るぐらいなら、

もっとジャンルを絞って、
なるべく多くの作家の「名言」を、
集めてほしいものだ。

太宰とか井伏鱒二なんかが、
やけに登場するのに、

鴎外や藤村が蚊帳の外というのは、
やはり偏っていると言わざるを得ない。

和歌だけでも、
この本で取り上げているジャンルすべてを、
カバーできるのは間違いないのだが、

和歌で紹介されているのが、
ほぼ良寛、少し定家、
って状態なのは、
うーん、やっぱりつまらない。