「恐怖」とは何か、
の定義から始まり、
その周辺の、
「グロテスク」や「死」に至るまで、
小説や映画、
あるいは著者自らの体験などの、
実例を多く引用しながら、
医者ならではの視点による、
興味深い「恐怖」論になっている。
参考までに、
先日購入した「物語要素事典」
を引いてみると、
「恐怖症」はあるが、
「恐怖」という項目はない。
なるほど、
おそらく「恐怖」を描いた物語は、
星の数ほどもあるだろうが、
直接的に「恐怖」について、
語り、説明した物語は、
見つけ難いということか。
まぁ、そうであるからこそ、
本書のような考察が、
成り立つということであろう。
ところで、自分の中で、
「恐怖」といえば、
小学校低学年の頃に観た、
アニメ『機動戦士ガンダム』の、
オープニングのナレーションにおける、
「人々はみずからの行為に恐怖した。」
という部分が、
なぜか印象深い。
小学生の時分に、
そんなことを考えるはずがないので、
これは後付けだとは思うが、
そもそも「恐怖する」という語法に、
違和感があるのはもちろんなのだが、
その違和感を利用した、
実にインパクトのある表現だと、
思い続けていた。
普通に表現すれば、
「恐れる」「怖がる」、
あるいは、
「恐怖感を与えられる」、
など、
文法的には、
自発・受身などと説明できそうな、
要はまわりくどい表現を、
せざるを得ないのだが、
あのアニメのナレーションでは、
「恐怖した」
とズバリと言いのけるところが、
暗い雰囲気の絵面と、
ナレーションの口調とで、
妙に印象的であった。
話が逸れてしまったが、
要は、その、
「人々が恐怖する」
ことについての、
メカニズムや実例について、
存分に語ってくれており、
読み応えのある一冊だと思う。