「毒々生物の奇妙な進化」(クリスティー・ウィルコックス)

 

そもそも、毒を持つ生物が現れたということ自体が、驚きだ。

毒を攻撃や防御に用いるようになったことは、
寄生という戦略と同じぐらい、
進化というストーリーの中での魅力ある要素である。

我々ヒトでいえば、ヒモやニートというのは寄生の一種だろうが、
さすがに毒は持っていない。

「毒舌」というのがあるにはあるが、
この本で紹介される「本物の」毒に比べれば、
それも陳腐な比喩としか思えなくなる。

様々な生物が持つ、様々な毒。

毒は、まるでそれ自体が生物であるかのように、
実に巧妙に進化してきたのが分かる。

ただ相手を殺すだけではなく、
全身を壊死でズタズタにしたり、血を止まらなくさせたり、
自らの言いなりになるようにゾンビ化させたり・・・。

見た目がかわいらしいカモノハシという動物は、
実は足の付け根に、蜂のような毒針を持っている。

それだけでも驚きだが、
その毒の成分を調べてみると、ヘビやクモなど、
あらゆる毒生物の毒を混ぜ合わせたような、
「毒のカクテル」状態になっているらしい。

カモノハシはどのようにして毒を身につけたのか。
それをいかなる時に用いるのか。

この本は、そういった「毒生物」たちの魅力溢れる生態から、
毒液そのものの成分についての考察、
そして我々はどのように毒生物と付き合うべきなのかといった問題提起まで、
とにかく、毒、毒、毒。

そして最後は、「毒にも薬にもなる」という言葉どおり、
それら動物たちの毒が、難病の治療に用いられつつある現状を紹介する。

内容に劣らず、文章も魅力的で、
ゴキブリバチが、ゴキブリをゾンビ化させて操るあたりの描写などは、
まるでホラー小説を読んでいるかのようにゾクゾクさせてくれる。

実に刺激の多い一冊だった。