「大貧帳」(内田 百間)

 

百間先生の「カネ」絡みの短編を集めた一冊。

「百鬼園随筆」などで読んだことあるものも多かったけれど、
こうしてあらためて、「カネ」をテーマにした文章をまとめて読むことで、
百間先生の面白さが再認識できる。

中公文庫、good jobである。

自分も会社を経営していたころは、
金策に困り、何か月も自分の給料を払えない時期があって、

今だから言うけれど、家賃を滞納したり、
買掛金の期限を延長してもらったり、

まぁ、それなりに苦しい局面はあったわけだが、

もしそのときに、百間先生の「カネは物質ではなく、現象である」という態度を知っていたならば、
どんなに心強かったであろうと思う。

ピーク時には、官立大学2校と私立1校を掛け持ちし、
さらに文筆活動まで行っていた百間先生が、
なにゆえそんなに金に困っていたのかについては、

本人もまったく語っていないし、
専門家の間でも、どうも定説がないようである。

でも当時の高利貸は、今の闇金のような、
とてつもなくブラックな状態だったらしいから、

おそらく先生も、最初は軽い気持ちで借りたみたところ、
自分はちゃんとした職業もあるし、名前も知れている、
だから貸す方は喜んで貸してくれる、

借りる方も勿論喜んでそれを借りて、
一時的に「金持ち」になった気分になって多少の散財をしてしまい、

でも気付くと、毎日増え続ける利息に対応できなくなってしまう、
という負のスパイラルに陥ってしまったということだろう。

しかし、百間先生の「借金地獄」が、文学作品たり得ているのは、
そのような境遇を悲嘆するのではなく、むしろ開き直り、

まるで他人事かのように、カネのおそろしさ・卑俗さについて、
徹底的に分析・攻撃し、

「カネ」という現象の前で、人間はいかに振る舞うべきかについて、
実にリアルに考察している点にある。

愛だの死だのを語るだけが文学じゃない。
文学者も人間である以上、カネの話は大事でしょ?

と、ほろ酔いで語りかけてくる先生の姿が目に浮かぶようでもある。

お金について悩んだら、一読してみることをオススメしたい。