2010年にノーベル文学賞を受賞した、
ペルーの小説家バルガス・リョサの大作。
全体の3分の2は、
アマゾン原住民による「語り」で占められており、
小説というよりも叙事詩という印象が強い。
「モノガタリ」は「物語」という字を当てられているために、
「モノ(=object)を語る」というイメージが強い。
しかし「モノ」は同時に「者」なのであって、
「モノ(=subject)が語る」というのが、
「モノガタリ」のもうひとつの本質でもある。
「語られるモノ(物)」よりも、
「語るモノ(者)」にスポットを当て、
「モノガタリ」とは何かという文学の根本のテーマを、
あらためて提示したのが、
この作品であるような気がする。
紙に書かれたストーリーでなく、
人の口によって語られたストーリーには、
独特の真実味というか、「凄み」がある。
「真言」や「はじめに言葉ありき」といった形で
宗教的に利用されることもあれば、
「歌」の形で音楽になることもある。
すなわち、音を伴った言葉(語り)は、
人を陶酔させる麻薬的な効果を発揮しうるのだ。
だが、この「密林の語り部」の「語り」の部分は、
小説の読み手であるわれわれは文字を通してしか感じられないのであり、
それが大いなるジレンマにもなっている。
しかし、その「語りの凄み」を文字で伝えようとしたのが、
文学者たるバルガス・リョサの腕の見せ所であり、
行間から漂う、アマゾンの密林の濃密な「熱気」は、
岩波文庫版の表紙にもなっている、
アンリ・ルソーの絵画を観たときのように、
読後の五感に静かに沈殿し、浸み込んでゆく気がする。