マーラーと言えば、やはりシンフォニーが有名だが、
「ピアノ協奏曲」(第1楽章のみ現存)があるなんて、
恥ずかしながら知らなかった。
その存在を知ったのは、
映画「シャッター・アイランド」を観てのこと。
精神科医の邸を訪れたディカプリオ扮する主人公一行。
その場面でレコードで流れていて、
その後も頻繁に使われるのが、この曲だ。
主人公の相方が、
「これはブラームス?」と言うと、
主人公がすかさず、
「いや、これはマーラーだ」と答える。
※実はこの曲が、主人公の過去にとっての重要なモチーフになっている。
マーラーの真髄は、シンフォニーの中でも、
「アダージェット」(5番)や9番など、
あの粘りつくような、哀愁漂う、
しかし感情の起伏もまた大きいメロディにあると、
僕は思っている。
それは画家のグスタフ・クリムトに代表される、
まさに世紀末ウィーンの芸術の典型ともいえるかもしれない。
初めて聴いたのが、映画と一緒なせいもあるだろうが、
それにしてもこの曲は、何て切ない響きをもっているのだろう。
曲の構成自体は単調だけれども、
時折ヴァイオリンが奏でる高音域のメロディと、
唸るような低音のメロディ、
そして何かをつぶやくような、ピアノの静かな和音の連打。
これらが見事に渾然一体となって、
未完成ながら極めて味わい深い作品に仕上がっていると思う。
ここには、晩年のマーラーに見られる、
分裂症患者特有の激しいまでの起伏はなく、
淡々と、切々と、メロディが流れるだけである。
しかしあの映画もこんな曲を挿入曲に使うとは、
心憎いばかりである。