源義経と同様、頼朝の弟として、
平家追討の大将でありながら、
美化・英雄化された義経と比べ、
あまりにも影の薄い源範頼という武将。
小中学生の頃、
吉川英治(たぶん)の『平家物語』を読んで以来、
自分の中でくすぶっていた、
「源範頼とは、果たしていかなる武将なのか」
という疑問を解き明かすべく、
6,500円という高価な本だけれど、
読んでみることにした。
(それにしても、範頼関連の本は少ない!)
一言で説明するならば、
範頼に関連した著述をまとめた、
論文集。
出自、源平合戦での活躍、
伊豆幽閉の原因と死、
そして子孫の行方、
と、この本を読むことで、
分かる限りでの、
範頼の(ほぼ)全貌を知ることができる。
そもそも、
なぜ範頼については謎が多いのかといえば、
文献が少ないこと、これに尽きる。
最も信頼に足る『吾妻鏡』は、
鎌倉幕府お墨付きの歴史書であるため、
政治的立場の偏りが甚だしく、
『平家物語』や『源平盛衰記』といった軍記物は、
フィクション色が強すぎて、
史実としての信頼性は低い、
という状況である一方、
幸いなことに、
在京の公家である九条兼実の『玉葉』から、
特に範頼に限ったわけではないが、
当時の状況を客観的に知ることはでき、
それと他の史料を組み合わせることで、
「謎の武将・源範頼」の姿を、
何となく浮かび上がらせることは可能だ。
範頼については、
どうしても義経と比較されてしまうため、
「凡将」というのが一般的な評価なのだが、
しかし、
範頼が苦手な水軍を率いて、
九州を平定していたからこそ、
壇ノ浦で平家の退路を断つことができ、
それが源氏方の勝利に貢献したことから分かるように、
義経が朝廷に取り込まれた一方で、
鎌倉の頼朝の指示に忠実に従い、
大局的な判断をすることができた範頼は、
凡将どころか、
すぐれた指揮官であったに違いないと、
この本を読んで実感させられた。
あと印象深かったのは、
範頼の死について。
『吾妻鏡』では、
頼朝に疑われて伊豆に幽閉された、
という事実が端的に書かれているだけだが、
曽我兄弟の仇討ち事件の裏にあった、
範頼をかつぎあげたクーデター、
そしてその直後の、
おそらく自死または暗殺。
普通に歴史を学んだだけでは知り得ない、
権力の構造とそれに関連する悲劇を、
知らしめてくれた一冊だった。