「放蕩息子の帰宅」というのは、
聖書中のエピソードの中でも、
よく絵画化されたものの1つである。
中でもレンブラントの作品がずば抜けて有名だけれども、
あの極端な陰影と表情がはっきりしない点、
そして人物を無理に構図に押し込めたようなレイアウトが、
個人的にはあまり好きではない。
今回の「カポディモンテ美術館展」で出会った「放蕩息子の帰宅」は、
ひと目見て好きになった。
適度な陰影、父の手を取り自らの人生を悔いる息子の表情、
そしてそれを見つめる父親の慈悲に満ちた眼。
さらに、父親が少し前屈みになることで絵の左上にスペースを作り、
レイアウトの単調さを防いでいるあたり、
作者不詳とはいいながら、
この絵の描き手が相当な腕前を持っていたことは確かだろう。
今回は、ティツィアーノやエル・グレコの素敵な作品にも出会うことができた。
でも「放蕩息子の帰宅」のような一枚を見つけるのが、
僕にとっての美術館巡りの最大の楽しみでもある。