僕には、セザンヌの良さが理解できない、
というコンプレックスがあった。
テーマが興味深いわけでもない、
色彩に魅力があるわけでもない。
しかしながら、セザンヌ以降の画家たちは、
皆口を揃えて、「学ぶべきはセザンヌだ」と言っているのが、
自分にはどうももどかしかった。
そんなセザンヌの良さはどこにあるのだろうかということを発見するために、
オルセー美術館展へ。
セザンヌ自身の作品は数点しかないが、
他の同時代の画家たちと比較し彼の特徴を理解するには、
うってつけの機会だった。
モネやゴッホ、ルノワールといった”華のある”絵に興味が向いてしまいがちだったが、
敢えてセザンヌを、何度も、穴の開くほど見た。
僕ははっきりと理解した。
セザンヌの凄さは、計算し尽くされた「レイアウト」にある。
「水浴の男たち」を見てみよう。
一見、何気なく男たちが配置されているようであるが、
彼らの体のラインと入道雲の盛り上がり、
そして樹木のフォルムが、
この単純な絵に心地よいリズムを与えている。
しかも手前の二人を立ち姿にしたことで、
バランス的な安定感を生み出しているように思える。
「台所のテーブル・籠の静物」にしても同様で、
中央に集まった果物やポットの配置を、
入念に計算した上で敢えて乱雑に見えるようにしている。
それぞれの大きさ・角度など、印象派が「光学」の芸術なら、
セザンヌは「力学」の芸術<と言いたくなるぐらいだ。
また1つ、絵を見る楽しみ方が増えた。