近頃の軽薄な生活と反比例して、
重厚な小説らしきものを読みたくなり、
夢野久作「ドグラ・マグラ」と並ぶ奇書と呼ばれる本作を、
以前より読もうと思いながらその機会を逸していたのを思い出し、
青空文庫(スマホ版)にて読むことを開始した。
事前の情報から相当の覚悟はあったものの、
いざ読んでみると、成程なかなか強烈である。
内容はともかく、その修辞と、
犯罪学・心理学・薬物学・芸術学・文学・物理学・精神医学・占星術・歴史学など、
あらゆる知識が練り込まれた、百科全書のような文章は、
眩暈を起こさせるのに十分だった。
ただそれも、そういうものだと割り切ってしまえば、
若干の読みにくさを残すのみで、
読書を進めることにそれほどの支障はなく、
むしろ段々と、黒死館という不気味な舞台にて繰り広げられる、
オカルト的殺人事件と、
それと対決するわが名探偵「法水麟太郎」の推理に、引き込まれてゆく。
小説中にて用いられるトリックなどには、
前述のような専門知識をベースとした器械的なものがあったり、
推理の遅れ・誤りによる被害者の増加という点に何らの考慮もなされていなかったり、
現実的な推理小説という意味で成功しているとは言えないと思われるが、
1930年代に書かれた、わが国の本格オカルト小説として捉えれば、
その魅力が減じられることはないであろう。