この本は、間違いなく面白い。
別に見た目が「怖い絵」を紹介しているわけじゃない。
描く側・描かれる側に潜む、宿命やら愛憎劇といった、
「人間の怖さ」を絵を通じて浮き彫りにするのが、
この本の主題だ。
西洋画というのは、ある時期まではほとんどが肖像画、
あるいは人間を描きこんだものがメインである。
だからこそ1枚1枚の絵には、
人間特有の何かしらの感情が含まれているわけで、
ただ見ただけでは分からない、
人間の醜さや儚さを、見事にあぶり出してくれている。
たとえば、ゴヤの『我が子を喰らうサトゥルヌス』。
この絵は、絵自体も十分怖い。
いわば、「ホラー画」の類である。
でも著者は、絵自体の怖さにはスポットライトを当てずに、
我が子を食さずにはいられなかったサトゥルヌスの悲哀、
そして何よりも作者であるゴヤの悲劇・・・
それらをクローズアップさせることで、表面的ではない、
味わい深い作品解説を展開していく。
さらには、ルーベンスの同テーマの作品と比較することで、
複数のレイヤーにわたる鑑賞法を提示してくれるのだ。