贋救世主アンフィオン
学生時代からアポリネールが大好きで、
どうしても原文のまま読んでみたくて、
大学時代に第三外国語としてフランス語を習ったりしたのだけれども、
結局、自己紹介すらできないレベルのまま挫折した。

まぁそんな皮肉も、
アポリネール本人が聞いたら大喜びしそうだが。

「月の王」「オノレ・シュブラックの失踪」「アムステルダムの船員」・・・
愛すべき短編はいくらでもあるのだけれども、
個人的にはこの「贋救世主アンフィオン」がイチオシだ。

そもそも「アンフィオン」とは、ゼウスの子の音楽の神の名で、
「救世主」などとは結びつくはずもない。

ではこの小説は音楽の話なのかというと、
全然そんなわけでもなく、

いかにもアポリネールがニヤニヤしながら、
周りから呆れを通り越した同情をも突き抜けた称賛を受けんばかりにしている姿が、
思い浮かぶ。

こんな一節がある。

「・・・俺はこんなマズい葉巻が何でできているのかと調べたくなり、
引き裂いてみた。するとその中に、
葉巻を吸うには邪魔にならないように巻かれた1枚の紙切れがあった。・・・」

葉巻に入っていた紙切れが手紙で、
その手紙をきっかけに物語が進展する、
なんてオシャレな手法は、並大抵の作家が用いうるものではない。

さすがはフランスのエスプリ、なんて思っていたら、
実はイタリア生まれだったことを知って、
またもや一杯食わされたと可笑しくなったのも、
今となっては懐かしい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です